≪論文要旨≫

 

菊谷正英国における中小法人課税の特徴、一中小法人課税の日英比較

英国では、税法上の法人は「小会社」、「中規模会社」と「大規模会社」に 三区分され、中小会社または小会社に対して租税優遇措置が講じられている のに対し、わが国では、税法上の法人は「中小法人」と「大法人」にニ区分 されている。中小法人の範囲決定規準として、英国では、「売上高規準」、「資 産額規準」および「従業員数規準」が利用されるのに対し、わが国では、基 本的に「資本金規準」が採用される。ただし、「従業員数規準」も併用して「中小企業者等」が定義されている。

中小法人の範囲を決める判定規準には、法的な「資本金規準」だけではなく、英国のように、経済的な「売上高規準」や「資産額規準」もわが国でも導入されるべきである。その場合であっても、「資本金」は信頼できる判定要因ではないので、会社法の創設に応じて新規に概念規定された 「資本金等の額」(株主等から出資を受けた金額として政令で定める加算14 項目と減算7項目の金額を資本金の額または出資金の額に加減した金額、すなわち具体的には株主等から出資を受けた拠出額である資本金と資本準備金その他資本剰余金の合計額)に変更されるべきである。すなわち、「売上高規準」、「資産額規準」、「従業員数規準」および「資本金等の額規準」の四要件のうち、三要件を満たす場合に該当する法人(大法人中小法人または 大法人中法人小法人)とみなすべきである。

本稿では、英国と日本における中小法人課税の特徴を比較分析するとともに、中小法人課税に対する提言を披瀝している

 

内野正昭 「国税通則法の改正と残された課題

平成23年度税制改正において、税務調査等の手続きの透明性および納税者の予測可能性を高め、調査にあたって「納税者の協力」を促すことで、① より円滑かつ効果的な調査の実施と申告納税制度の一層の充実•発展に資す る、②「課税庁の納税者に対する説明責任」を強化する、という2つの目的 から、国税通則法について、40年ぶりに大幅な改正が行われた(平成23年 度法律114号、平成25年1月1日施行)。

具体的には、提出物件の留置き、調査終了の際の結果の開示と修正申告等 の勧奨、行政手続法に基づく処分の理由附記、更正請求の期間延長(1年→5年)など、従来行われてきた税務慣行が明文化されると共に、所得税法等 個別法に規定されていた税務関係諸手続きが、国税通則法という一つの法律に編纂し直された。  

国税通則法の編纂により、納税者は手続規定を一覧的に参照し、各手続の 重要性をすばやく再確認することが可能となる。さらに、とかく問題が発生 しがちであった税務調査の現場において、調官と納税者の間で、手続規定 を正しく確認し合うことが可能となる。

当該改正により、国税通則法は「納税者の協力」を促し、調査官と納税者 の間のより深い相互信頼関係の構築に資することが期待される。

 

守屋俊晴「税理士の損害賠償請求訴訟事件(善管注意義務違反)と嘆願書制度の関係について

租税(制度)は、人間が社会的生活を営むようになった時代からあり、歴史的産物(制度)である。そこに空極的な表現をすれば、納税者はいかに納税額を低く抑えるかについて、他方、徴税者はいかに納税額を高く徴税するか、という2つの対極的な思考体系がある。現代社会においては、そのため(有効的制度定着)に、納税者に対する「平等と公平」が重要な制度化要因となっており、その擁護として憲法による保護がある。その重要な基本的規定が「租税法律主義」と「納税者主権主義」である。しかし、これだけでは、徴税者と納税者、双方に満足のいく形で、制度運営が行われ得るというものではない。

平成24年度の税制改正において、納税者が「更正の請求」を行うことができる期限が5年に延長されたことから、嘆願書利用の機会が減少することは明らかであるとしても、嘆願書制度の廃止に直接的に結び付くものではない。

確定申告書を提出していない者に対して、「経済的利益の存在認定」が行われた場合のようなケースでは、更正の請求はできないので、嘆願書に頼るしか方策は無いと考えている。

 

依田俊伸「保険契約に関する税務上の問題点」

保険契約に関する税務上の問題点 として、遁増定期保険の取扱いについて平成8年に改正された個別通達 (以下、「平成8年通達」という)の検討を行った結果、遁増定期保険料に含まれる実質前払保険料を適正に資産計上するために、事業年度末 日現在の当該遁増定期保険契約に係る解約返戻金相当額により当該保険契 約を評価すべきことを提案していた。

その後、平成20年に上記個別通達が改正されている(以下、「平成20年通達」という)。その改正により、それまで損金の額に算入されていた遁 増定期保険料の相当程度が資産に計上されることになったが、基本的な考え方は踏襲されている。

そこで、本論文では、「平成20年通達」の内容につき、「平成8年通達」と比較してどのように取扱いが変更され、どのように問題点が解消されたかを検討する。

遁増定期保険契約を解約返戻金により評価するという場合、保険商品により解約返戻金の金額の増減について時期的に変化を付けるものが設計されることがあり得る。その場合にも、原則として各事業年度末の解約金相当額で評価するのが原則となる。しかし、当該遁増定期保険契約を利用して役員等に対して不相当な経済的利益を供与することが明らかな特別な事情が存在するような場合には、保険契約の期末評価を解約返戻金相当額に替えて合理的な金額に変更することも検討する必要があると思われる。

 

一由俊三「貯蓄課税の中立性英国のマーリーズ報告書による貯蓄課税の提案」

英国の財政研究協会(Institute for Fiscal Studies ;以下、IFSと略す)は、ノー ベル経済学賞を受賞したジヱ一ムズ•マ一リ一ズ卿(Sir James Mirrlees)を中 心とするメンバーによりまとめられた『マーリーズ•レビュー』(Mirrlees Review:以下、「マーリーズ報告書」という)は、2つの巻で構成されている。2010年4月に発刊された第1巻に相当する報 告書『税制設計の特性』(Dimensions of Tax Design)は、13の領域について、それぞれの専門家が最新の理論に基づき論述した税制に関する一連の論文集となっている。第2巻としての『税の設計書』(Tax by Design)は、報告書作成チームによる首尾一貫した税制改革の総合的見解が提供されている。『税の設計書』は、2010年11月10日にプレリリースされ、2011年9月13日に公式発表されたが、その第13章と第14章が貯蓄課税に係る提言書である。第13 章「家計における貯蓄への課税」(The Taxation of Household Savings)では、貯蓄課税の中立性について論じ、第14章「貯蓄課税改革」(Reforming the Taxation of Savings)では、英国における貯蓄課税改革について分析している。本稿では、第13章における貯蓄課税の適正性に係る中立性の理論を考察する。

「マーリーズ報告書」が提案する税制改革案には、経済学的な資本維持の立場に立ち、根底には、資本に係る正常収益の非課税化を原理とすべきであるとの考え方が流れている。超過収益または超過利潤(rent)が租税を負担すべきであり、正常収益は非課税とし、超過収益には高率で租税を負担させようとの論理が垣間見える。「支出税」が求める定義Bに所得概念を置き、現行制度を大きく変更することなく、同様の効果をもたらす方法が模索されている。この改革案は総合的改革案であり、貯蓄課税単独で改革を行おうとはしていない。

法人税改革のACE導入に際しては、法人課税制度の形態と構造は、個人課税 制度の形態と構造と一致しているべきであり、かつ、特に、貯蓄への課税に対 する政治的選択とも一致しているべきであると主張し、個人貯蓄課税と法人課 税制度の接点である小規模事業課税において、ACEとRRAが超過収益に対する課税均一化をもたらす方法論を展開する。

 

神保集「欠損金の繰越控除について

平成23年12月2日に公布された「経済社会の構造の変化に対応した税制 の構築を図るための所得税法等の一部を改正する法律」(平成23年法律第114号)において、欠損金の繰越控除についての改正が行われた。これによると、中小法人等以外の法人の青色申告書を提出した事業年度の 欠損金(以下「青色欠損金」という)及び災害による損失金(以下「災害損 失金」という)の繰越控除限度額について、繰越控除をする事業年度の控除 前所得の金額の100分の80相当額までとされることになった(法法57①、⑪、法法58①、⑥)。

この改正は、法人実効税率について、「新成長戦略」(平成22年6月18日閣議決定)の方針のもと、課税ベースの拡大等により財源確保を図りつつ、引下げが行われたことに伴い、その課税ベースの拡大の一環として行われている。すなわち、平成23年度税制改正において、欠損金の繰越控除の期間が9年に延長され、控除額が控除前所得の金額の100分の80が上限とされた。欠損金の繰越控除が原則的考えであるとするなら、その金額に制限を設けることは、本来通算されるべき欠損金額が切り捨てになる可能性が生ずる。

そうなると、9年の間に同じ所得があった法人を比較して、平均して所得を出した法人と、浮き沈みのあった法人で納税額が変わってくるという問題が生じる。これは、所得無き課税が行われている状態であり、本来 所得課税であるはずの法人税においてはその本質を覆す問題であると言える。

平成23年度改正による、欠損金の上限設定は、武田教授の言葉を借りれば、財産権の侵害であり、憲法に抵触する問題であるため、非常に疑義が残る改正であると考える。

 

酒井翔子英国の法人概念と配当課税制度の変遷」

従来、法人•個人間の二重課税の排除措置として採用されてきたインピュ テーション方式は、国際的資本移動が頻繁に行われ、法人税•個人所得税の負担者が一致しない開放経済では機能しない。

『マーリーズ報告書』が指摘するように、借入金に係る支払利息の控除を廃止し、利息控除前•減価償却後の法人所得に対して課税するCBITにより、資金投資に係る正常利益を課税対象に含めた上で負債または株式に対する課税の公平性が実現されるが、単に支払利息の控除可能性を廃止するだけでは、法人税に関する他の諸問題の解決には至らない。しかも、支払利息に対して税務上の救済措置を施さない場合、借入•貸付業務を遂行するような銀行その他の金融業者の対して多額の増税を強要することになるため、銀行等の金融業者に関しては、利子所得に対してのみ支払利息の控除を認める方法が提案されている。その際、利子所得が支払利息を超える場合に限り、利子所得から支払利息が控除され、支払利息が利子所得を超える場合には、当該支払利息の控除が認められない。このように、正常収益•超過収益の区別なく法人資本所得に対して、漏れのない課税を実行するCBITは、制度の仕組みからも明らかなように、法人税の課税ベースを引き上げるため、 何らかの調整措置が講じられる必要がある。

支払利子および株式調達コストの控除を認めるACEも、手法は異なるものの、利子•配当•キヤビタルゲイン等、資本所得課税に対して中立的である制度としてはCBITと共通する。しかし、閉鎖的経済では、株主資本に係る収益は法人段階で源泉課税される一方で、借入れにより生じた収益は個人 レベルで課税されるべきであるという従来の見解からすれば、課税上の不合理を法人段階のみで解決するCBITよりも、法人•個人の各段階において資本課税の問題に対処するACEは評価され得る。

開放経済では、法人税が企業の投資に影響するのに対し、個人所得税は個人の貯蓄に影響することから、法人課税と個人課税は別個に検討されるべきであり、法人の投資行動には、個人課税ではなく法人課税が影響するため、企業の投資促進に配慮した資本所得課税制度としても、インピュテ一ション 方式等、個人段階の調整よりも、法人段階で配当を自己資本調達コストとみ なして正常収益分を非課税とするACEが望ましい。