≪論文要旨≫

 

菊谷正人「『資産再評価法』再導入論

租税法Steuerrecht)は、特にインフレ期を考慮して規定されていないの で、法定通貨による名目価値主義を基調とした取得原価主義(Anschaffungskostenprinzip)が、法律経済制度の全般的な構成原理として計算確実性と画一的評価可能性を有するので、各国税法の基礎にされている。税務行政•計算技術上の理由から、取得原価主義による名目課税が課税の法的安定性のための法秩序の原理として採択されている。

しかしながら、価格変動を無視する所得税法Einkommensteuergesetz) は、架空利益Scheingewinn)を含む名目利益Nominalgewinn)を課税標 準とするので、租税給付能力を侵害することになる。つまり、減価償却資産 等の費用性資産の費用について取得価額Anschaffungswert)と再調達価額 (Wiederbeschaffungswert)との差額である架空利益が、所得計算の中に算 入され、課税標準を歪めてしまうからである。取得原価主義に基づく名目利 益は、価格上昇時には過大計上されるので、その結果、「架空利益に支払わ れる租税、さらには資本投資価値を侵食する租税の課税標準となってしまう。価格変動時に取得原価主義により会計処理すれば、収益(revenue)がカレントな価格で計上されているのに対し、費用(expense)は過去的な数値で測定されるので、同一価格水準での費用収益対応(matching cost with revenue)は期待できず、実質的な処分可能利益の計算は不可能である。古い取得原価と現在的な再調達原価との差額である「架空利益」または「紙上利益」も期間損益計算の中に算入され、経営資本の一部が課税対象となり、外部に流出されることになる。

わが国では、過去2回の資産評価に関する例外規定が時限立法として定められていた。昭和25年の「資産再評価法」と平成10年の「土地の再評価に関する法律」が、取得原価主義における特別規定として公布された。ただし、両法においては、その立法趣旨、再評価の対象資産・対象者・算定方法、再評価差額の税務処理は相当に異なる。本稿では、両法の相違点を明らかにするとともに、将来における資産再評価および再評価差額の税務処理について、具体的・実質的な提言を行う。

再評価の対象資産として、「土地再評価法」では、政治経済対策上、事業用土地に限定されていたが、「資産再評価法」においては、戦後における企業の実質資本維持のために、事業用土地のみではなく、資産一般について再評価が行われた。とりわけ、建物•機械等の減価償却資産の再評価が重視されている。「土地再評価法」のように、部の資産のみに再評価を容認する措置は跛行的な措置であり、「課税公平」の観点から問題である。「資産再 評価法」と同様に、すべての資産(減価償却資産、土地•土地の上に存する 権利、株式、その他の事業用資産)の再評価が行われるべきである。

再評価の対象者として、「土地再評価法」は一定規模の企業等に限定していたが、「資産再評価法では、すべての法人と個人に再評価が容認されいた。再評価の対象者には規模の大小に閨係なく、「課税公平」の観点からすべての法人および個人に再評価が認められるべきである。なお、「社会的存在」として経済的に重責を担う上場会社等には、資産再評価の強制的適用が講じられるべきであろう。

再評価の時期としては、理念的には毎決算日に行うべきであろうが、再評 価は例外規定に基づく特別措置であるので、数年(たとえば、5年または10年)ごとに行うのが適当であろう。

資産評価法では、物価指数に基づく再評価倍率を利用して再評価額が算定されたが、「土地再評価法」では、公的な時価(地価公示(国税庁)、都道府県地価調査(都道府県知事)、相続税評価(路線価、国税庁)、固定資産税評価額市町村))または不動産鑑定士による鑑定評価が採用さ れている。課税の形式的法的公平あるいは税務行政計算技術上の理由から、全国画一的に統一された再評価倍数が利用されるべきであるかもしれないが、資産の価額(時価)は当該資産の配置場所保有状態等によって異なる。とりわけ、土地の価額(地価)は大都市部と地方部では大きく乖離している。土地等に対して全国一律に同じ再評価倍数に基づいて再評価額を算定することは、当該資産の特殊性を考慮に入れない算定方法であると言わざるを得ない。実質的経済的な課税公平を担保するためには、全国画一的な再評価倍数ではなく、「土地再評価法で採択されたように、当該土地の時価が採用されるべきである。

ただし、減価償却費として損金算入できる減価償却資産に対しては、税務 行政上、形式的法的な課税の公平を担保するために、「資産再評価法が採用したように、全国画一的な再評価倍数が代替的に利用されてもよいであろう。

「資産再評価法」では、再評価差額に対して、律6%の「再評価税」が 課された。ほぼ同時期において、日本とフランスでは、戦後の経済復興という国家政 策により、企業の実質資本維持のために資産再評価が実行されている。再評価差額に対しては、わが国では、一律6%の再評価税が課されていたが、フランスでは、当初、非課税措置が施されていた。もし再評価税の課税を強制適用するならば、6%ではなく、フランスで採用された3%あるいは固定資産税率と同様の1.4%の低い税率による再評価税が導入されるできであろう。ただし、減価償却資産については、企業資本充実実質資本維持を実現するために、再評価差額には非課税措置が講じられるべきである。経済的に適正に算定された減価償却費の計上によって、企業経理の合理化を図るために、減価償却資産に係る再評価差額は課税対象とすべきでない。

 

守屋俊晴「国家財政と財源確保等の諸問題に関する一考察-憂いある国の行方を案じて-」

日本経済新聞(以下、「日経」という。)よれば、日本国が初めて国の財務書 類(財務省主計局編)を公表(平成20年度版)したと報じている。財務省 が、平成22年1月に公表した「一般会計財務書類(平成20年度)」は、あく までも一般会計の財務書類である。そして、平成25年3月には、範囲を拡大した「国の財務書類(平成23年度)」を公表している。

両者の違いには大きな変化がある。後者版の冒頭において、国は「国の財務 諸表は、『省庁別財務書類の作成基準』に基づき各省庁が作成した省庁別財務 書類の計数を基礎とし、『省庁別財務書類』を合算し、省庁間の債権•債務等の内部取引を相殺消去して作成したものです。」と記載している。この省庁別財務書類は1,516ページにものぼる分厚い書類である。なお、この冒頭の記載文書では、続けて「一般会計及び特別会計を合算した財務書類のほか、一般会計の財務書類及び独立行政法人等を連結した財務書類で構成されており、企業会計ベースで国の財務状況を幅広く提供するものです。」と紹介している。上記財務書類の中の平成23年度の区分別収支計算書によると一般会計の財源合計が56兆円であるのに対して、特別会計の財源合計は169兆円で、一般会計の3倍となっている。

ただし、以下に示したように国の財務書類には幾つかの問題がある。

財務書類作成の適正性について

採用した会計基準は「企業会計ベース」としているが、たとえば「退職給付引当金」は、企業会計としては陳腐化した「自己都合による期末要支給額」を計上していることなどがある。

また、最近とくに問題とされているインフラ整備等に閨わる問題点がある。東京オリンピック開催(建設等の時期)に向けて整備された上下水道施設をはじめとする公共施設が、現在、老朽化して使用不能施設もしくは使用不能予備 軍的施設が増加している。その維持改修工事代金見積額ほか必要な潜在的債務 (必要修繕費見込額等)が計上されていない。

財務書類の信頼性について

会計の世界は「会計と監査は表裏一体」の関係にある。その閨係は「コイン の表裏の関係」である。財務書類の作成責任は作成者にある。その財務書類の 信頼性を付与するのが、作成者から独立した立場にある第三者の監査である。国の財務書類にはその関係がない。多分、官尊民卑の世界において、官の作成 したものを民が監査するなどということは、はたから想定していないことによるものと思われる。

日本国の連結財務諸表について

「日本国の財務書類」といった場合、一般的(常識的認識)には、中央政府と地方政府を連結した連結財務諸表をもって理解されるべきところであるが、国が作成している財務書類はあくまでも中央政府の財務書類である。しかも、出納整理期間を利用した修正発生主義会計ともいうべき変則的な会計方法を採用している。

財務書類の公表、公開の在り方について

ここに作成・公表されている財務書類は、広く公表されているわけではなく、政府刊行物センターでさえ取り扱っていない。まず、定価(価格表示)がない。つまり、閉鎖的刊行物であることから、国民に対して発信しているもの ではないというところにも問題がある。

 

小林義和「法人税法における中小法人判別基準についての一考察

本論文は、中小法人税制の存在意義を問うものではなく、あくまで中小法人 税制の存在を是として、その対象となる中小法人の判別方法に着目し、その判 別基準の是非を問うものである。

平成18年5月に会社法(平成17年法律第86号)が施行されたことに伴い減資等による資本の計数変動が容易となったことは、資本金を減少させる目的が 明確でなくとも、資本金等の額を変更することなく資本金のみを減少させることを可能にした。つまり、本来ならば中小法人税制の適用を受けない規模の大きな法人においても、資本金等の額を変更することなく資本金のみを減少させて中小法人になることができるのである。

このように、中小法人の判別を資本金により形式的に判別していることは、 本来中小法人税制の適用対象とはなりえないような内容を擁する規模の大きな 法人に対しても中小法人税制の適用を容認することになり、税の軽減が図れて しまうという課税上の弊害を生じさせている。この中小法人の判別については、中小法人税制の立法目的、すなわち、自己資本の充実のための租税負担の適正化を達成するのに相応しい適用対象法人を適切に選定すべきであるとの立場から、上記の弊害を除去し、問題点を解消するために、新たな中小法人の判別に 相応しい基準の設定•導入を提案している。

すなわち、「中小法人」の判別を「資本金」のみの単一基準から、5つの篩(資本金1億円以下、資本金等の額1億円以下、非中小法人でない、設立5年未満、株主資本5億円未満)にかける基準に変更することを提案した。