≪論文要旨≫
―日本人・日本企業が留意すべき事項と問題点に関する一考察―」
中国は、1954年9月20日、「中華人民共和国憲法(一般に『五四憲法』という。)」を制定し、公布した。この五四憲法では、これまでの社会主義国家から資本主義国家への変貌が意図されているが、社会主義経済と資本主義経済は、「資本や財産の私的所有」などおいて、根本的な相違があるため共存できるものではない。ここでは形式的・外観的には「租税法律主義」が設けられたことになるが、現実としては、そのようには機能してこなかった。長い歴史のしがらみや社会的環境の大きな変革という強烈な障害が起きてきたからである。
今や中国では、100万㌦長者が100万人を超え、資産10億㌦(約1,000億円)以上の大富豪が270人あまりいるほどの経済大国に成長している。その背景には、中国政府の強烈な成長戦略がある。先進諸国に追いつこうとする欲求が、経済成長の原動力になっている。そこに税制が必要とされた要因がある。
個人所得税をはじめ、中国の現行税制は「外国人への課税制度」という原点(基礎的必要要件)からスタートしている。中国の外資導入に伴って中国に赴任してきた外国人の給与所得が高いこともあって、所得税を中心として、外国人に課税していく必要性が高まっていった。
中国経済の基本的基盤は国有企業の経済力であり、国家経済を支えてきたのは国有企業である。それが直接の原因ではないとしても、国有企業との取引が重要な取引開始起点となっていることから、富の恩恵を受ける者とそうでない者とが生まれ、社会の不公平感が増大し、大きな社会問題を起こしている。多数の国民の不平・不満として浮き上がってきた。
中国の税法は多岐にわたっており、税金の種類は多様性を持っている。外資系企業が深く関係している税法としては①増値税、②営業税、③外商投資企業・外国企業所得税、④個人所得税、⑤土地増値税および⑥印紙税などがある。
企業課税も問題である。非居住者企業であっても、中国国内に源泉のある所得について企業所得税を納付しなければならない。次に問題とすべきことは「課税所得額の計算」である。まず企業は各納税年度の収入総額から、非課税収入、免税収入、各控除項目および補填することが認められる過年度の損失額を控除した後の残額を課税所得額とする。
企業は貨幣形式または非貨幣形式により各種源泉から取得した収入を収入総額とし、企業が取得した貨幣形式による収入には、現金、銀行預金、売掛金、受取手形、満期保有目的の債券投資および債務免除等が含まれる。また、企業が取得した非貨幣形式による収入には、固定資産、生物資産、無形資産、持分投資、棚卸資産、満期保有目的でない債券投資、労務および関連の権益等が含まれる。さらに青色欠損金制度があり、企業で納税年度に発生した欠損は、以後の年度へ繰越し、以後の年度の所得をもって補填することができる。ただし、繰越期間は最長 5年を超えてはならないとされている。
法人税法第22条第4項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」の法的検討
長島弘(立正大学准教授・税理士)
はじめに
法人税法第22条第4項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(以下、原則としてこれを「公正処理基準」という。)」が何を指すかは、今もって、多くの裁判例で議論されている。この条文が昭和42年改正で規定されて以降、この点について、東京地裁昭和44年5月29日判決、東京地裁昭和46年5月12日判決、東京地裁昭和47年9月13日判決などを皮切りに幾つかの下級審判決で判断を下しているが、最高裁として明確な判断を下したのは、大竹貿易事件最高裁判決(最高裁一小平成5年11月25日)であり、それに続くSVC事件最高裁決定(最高裁三小平成6年9月16日)であり、そこではこれが法人税法としての価値判断に基づく公正性に依ることが判示されている。またこの後に同じく脱税経費の損金性が争われた松山地裁平成9年5月16日判決(その判断を支持した控訴審は高松高裁平成10年1月27日判決)、また昨今の東京地裁平成25年2月25日判決及びその控訴審東京萬裁平成25年7月19日判決といった裁判例でも同様に、法人税法の価値判断に基づく公正性に依って、結論を導いている。
また納税税者側の勝訴ではあったが、東京地裁平成27年2月26日 (3月3日変更)判決もまた、会社法上問題がありながらも、税務通達により形成された退職給与の支給年度損金経理が、一般に公正妥当な会計慣行の一つであると判示しているのは、この公正処理基準の解釈に法人税法の価値判断が含まれることを示したものとも言え、大いに問題を感じるものである。すなわち、確定決算主義(法人税法第74条第1項)の下で、公正処理基準は、「会計基準-会社法-税法」という三重構造においての前段階である(会計基準を含んだ)会社法(金融商品取引法適用会社にあっては会社法の特別法としての金融商品もということになるが)においての公正妥当な会計処理を指すものという事になるはずであるから、公正処理基準の解釈においては、税法の価値判断が入るべきではないと思えるからである。
そこで、関連する法体系を概観した後に大竹貿易最高裁判決を検討し、もって公正処理基準が何を指すのかという点について検討したい。
斎藤一生「土地の取得費の課税に関する一考察 ―取得費が不明である場合―」
所得税法(昭和40年法律第33号)における譲渡所得の計算では、総収入金額から取得費と譲渡費用を控除した譲渡益を求め、それから特別控除額を差し引いて所得金額が計算される(法法33③)。その場合、譲渡所得の金額の計算上、控除する資産の取得費は、その資産の取得に要した金額とされている(法法38)。
通常、取得時の売買契約書からその取得費を知ることができるが、取得から譲渡までの期間が長期にわたるような場合には、取得時の売買契約書を紛失してしまい、さらに当時の不動産仲介業者に問い合わせても取得費を証する情報が残されていないこともある。正確な取得費が判明しない場合、どのように取得費を決定して申告を行えばよいのであろうか。
まず考えられる方法としては、譲渡収入金額の一定割合に相当する金額を取得費とする概算取得費による計算方法がある。ただし、概算取得費による計算を行うと、その土地の取得年度によっては、実際に取得した金額よりもはるかに取得費が小さくなってしまうおそれもある。このようなケースでは、納税者が過大に納付することとなる所得税額や住民税額は、契約書紛失の代償と言うにはあまりにも大きな額となってしまう。
一方で、概算取得費による計算を避けるために、市街地価格指数等を用いて推計で計算してしまうようなことになると、反対に、納税額が本来の取得金額よりも過少になってしまうおそれがある。推計方法が妥当でないような場合には、実際の取得費からかけ離れた金額が算出されてしまうこともあり、課題が残る。ただし、バブル経済期に大きく値上がりした地域で購入した土地を現在の時価で譲渡した場合、市街地価格指数を根拠として譲渡所得が発生しないという主張があるとすれば、これはおそらく事実である可能性が高い。たとえば、平成元年9月時点の住宅地の六大都市市街地価格指数は186.9であるが平成28年9月時点では78.5となっており、当時の一般的な地価は現在の倍以上であったと考えられるため、いくら市街地価格指数がマクロ的な指数だとしても、取得費の方が譲渡収入よりも大きくなるケースが多いと思われるのである。そのため、市街地価格指数による取得費計算に合理性がないとは言い切れないだろう。
借入金額を根拠として取得費を算定する方法はどうだろうか。実際の取得の際に自己資金による支払があった場合には、借入金額を取得費とする限りは、その譲渡所得の金額の計算は保守的であると言うこともできる。基本的には、実際の取得費と比べると、小さな金額になると思われるので、借入金額を根拠とする方法には妥当性が感じられる。
このような問題を解決するには、不動産の取引金額を契約書や借入金等ではなく、他の側面から把握できるような仕組みを構築することが必要ではないかと思われる。たとえば、過去の不動産の取引金額を納税者が把握できるような仕組みとして、マイナンバー制度の利用が考えられる。プライバシーを優先するのであれば、全ての納税者が不動産を取得した時点で取得費の登録を行わないとしても、任意と言う形で、取得費をマイナンバーに関連付けることを納税者が選択できるような方法を検討してもよいのではないかと思われる。
佐野哲也「消費税の軽減税率制度導入に伴う課題 -税額計算の特例を中心として-」
消費税は、所得額と関連なく消費額に負担を求めているので、高額所得者に対しては租税負担を相対的に軽く、低額所得者に対しては租税負担を相対的に重くする逆進的租税である。消費税には、本源的に「逆進性」が内在するが、その逆進性緩和策として、「酒類・外食を除く飲食料品」及び「週2回以上発行される新聞の定期購読料」を対象に軽減税率が初めて導入されることになった。その導入に伴う複数税率制度の下で適正な課税を確保する観点から、平成35年10月より「適格請求書等保存方式」(いわゆる「インボイス制度」)が採用される予定である。ただし、平成31年10月1日から平成35年9月30日までの4年間には、経過措置として、簡素な方法である「区分記載請求書等保存方式」及び中小事業者に対して「税額計算の特例」が適用される予定である。
消費税の軽減税率制度が導入された場合、複数税率に対応した区分経理が必要になる事業者としては、軽減税率対象品目の取扱いがある事業者となるが、特に影響を受ける事業者は、課税売上げ及び課税仕入れに軽減税率対象品目が含まれる割合が高い事業者であり、農林水産業・料理飲食業及び食品関係卸・小売業者等が挙げられる。これらの事業者の中で、区分記載請求書等保存方式へ移行することへの対応が困難とされているのが中小零細事業者である。中小零細事業者にとっては、過重負担が強いられることが予想される。
そこで、消費税の軽減税率制度導入に際して、中小零細事業者が実務上で直面するであろう「税額計算の特例」を中心にして若干の考察を加えることにする。
持分なし医療法人への移行に係る課税上の問題点
~創設された認定医療法人制度の課題~
樋口洋祐(税理士)
はじめに
医療法人は、財団医療法人と社団医療法人とに区分される(医療法44②七、八)。社団医療法人のうち、出資持分について定款に定めのある社団を「持分あり医療法人」、出資持分について定款に定めのない社団を「持分なし医療法人」という。また、財団医療法人は、設立者が寄附を行った財産を 基礎とする財団形態の組織であり、その設立者が財産権を放棄しているため、財団医療法人には持分の概念がない。したがって、「持分なし医療法人」という用語は、持分のない社団医療法人と財団医療法人の総称として用いる。
平成26年度税制改正において、「医業継続に係る相続税·贈与税の納税猶予・免税制度」が創設された。この改正は、「持分あり社団医療法人」から「持分なし医療法人」への円滑な移行を促進させる厚生労働省の政策を反映したものである。つまり、一定の「持分あり医療法人」に対して、その法人が認定医療法人に該当するときは、「持分なし医療法人」への移行時の納税を猶予あるいは免除する制度が創設され、平成26年10月1日に施行された。
本稿では、現行税制における「持分なし医療法人」への移行に関する課税上の問題点を指摘した上で、新制度の移行促進策としての位置づけと課題を確認する。新制度は、「持分なし医療法人」への移行を促進させる一助となる可能性もあるが、実際には多くの課題が残されていると考えており、その解決の方向性について論じる。
中国の増値税に関する一考察
許 英姿(明治大学商学部兼任講師)
Ⅰ 中国における主な税収
中国の現行税制において税収としては18税目があり、2015年の税収総額は124,922.2億元(約225.6兆円)に上る。18税目のうち、増値税(value-added tax)、営業税(business tax)、企業所得税(enterprise income tax)、個人所得税 (individual income tax rate)、消費税(consumption tax)の5種類が主要な税目である。増値税と営業税は日本の消費税に相当するものであり、その他3税目はそれぞれ法人税、源泉徴収税、物品税に相当するものである。
2015年において、この5種類の税収が国の税収総額に占める割合は、それぞれ24.64%、15.46%、 21.72%、6.90%、8.44%である。増値税と営業税と消費税を合わせた消費課税は48.53%、税収の5割弱を占めている。そのうち、増値税と営業税が占める割合は40.10%である。企業所得税と個人所得税をあわせた所得課税は28.62%になり、税収総額に3割弱を占めている。
これに対して、2016年4月30日現在、日本において消費課税が税収総額に占める割合は33.7%であり、そのうち消費税の割合は21.9%である。法人所得課税と個人所得課税を合わせた所得課税が税収総額に占める割合は 52.6%である。
中国の税収における消費課税の割合は、20年間の税収データをみると、おおよそ48%~56%の間で推移している。近年においては、増値税と営業税のウェートがやや落ちるものの、2015年には40.10%になっている。日本が所得課税にウェートを置くのに対し、中国は消費課税にウェートを置いているといえる。表lでは、2005年、2010年、2015年における主な税収額とその割合が示されている。
表1 中国における主な税収額および税収合計に占める割合
(単位:億元)
税目 |
2015年 |
2010年 |
2005年 |
国家税収合計 |
124,922.20 |
73,210.79 |
28,778.54 |
国内増値税 |
31,109.47 |
21,093.48 |
10,792.11 |
輸入増値税・消費税 |
12,533.35 |
10,490.64 |
4,211.78 |
輸出増値税・消費税 |
-12,867.19 |
-7,327.31 |
-4,048.94 |
増値税合計 |
30,775.63(24.64%) |
24,256.8 l (33.13%) |
10,954.95(38.07%) |
国内営業税 |
19,312.84(15.46%) |
11,157.91(15.24%) |
4,232.46(14.71%) |
国内消費税 |
10,542.16(8.44%) |
6,071.55(8.29%) |
1,633.81 (5.68%) |
企業所得税 |
27,133.87(21.72%) |
12,843.54(17.54%) |
5,343.92(18.57%) |
個人取得税 |
8,617.27(6.90%) |
4,837.27(6.61 %) |
2,094.91(7.28%) |
その他 |
28,540.43(22.85%) |
14,043.71(19.18%) |
4,518.49(15.70%) |
注:増値税合計は、国内増値税、輸入増値税·消費税、輸出増値税・消費税の合計である。
為替相場: ]元=18.06円(2015年末現在)。
出所:http://data.stats.gov.cn/(20 I 7.3. 10).
本稿の日的は、中国における増値税と営業税の概要、歴史的変遷およびその徴収に係わる中国特有な仕組みを検討し、中国における消費課税の特徴を浮き彫りにすることである。