≪論文要旨≫

    

 

令和510月に新規導入されるインボイス制度

菊谷正人(法政大学名誉教授)

 

(要旨)

 平成元年41日の消費税導入時から、前段階取引の消費税額である「仕入税額」を排除する「仕入税額控除」の方法としては、事業者の納税事務負担の軽減等を図るために、帳簿上の記録に基づく「帳簿方式」が採用されてきた。「帳簿方式」では、帳簿上の記録(売上高・仕入高)から消費税額を計算し、帳簿によって申告できるので、取引ごとに消費税額を個別計算する書類・伝票である「インボイス」は必ずしも必要ではない。ただし、「帳簿方式」が引き起こす租税転嫁の不透明性に対処するために、「インボイス方式」の新規導入が令和5101日に予定されている。「インボイス方式」の導入によって「仕入税額」の明確化・租税転嫁の透明化が期待される。

 本稿では、「仕入税額控除法」として、平成元年41日から令和5930日まで利用される「帳簿方式」(厳密に言えば、「帳簿・請求書等保存方式」と「帳簿・区分記載請求書等保存方式」)と比較しながら、令和5101日から適用される「インボイス方式」の特徴と課題について検討を加える。

 

 

確定決算主義におけるわが国中小企業会計について

~収益認識基準を中心に~

加納輝尚(昭和女子大学)

 

(要旨)

 新収益認識基準は、従来の実現主義の原則と矛盾するものではなく、収益認識に係る会計処理の新たな原則となるものではない。しかし、新収益認識基準に関する法人税法等の改正の結果、「カスタマー・ロイヤルティ・プログラム」のケース等では、新収益認識基準を適用した方が販売年度の益金算入額が少なくなる。確定決算主義における中小企業会計に関し、税法上の節税目的で企業利益が調整される可能性を考えた場合の新収益認識基準の部分的な採用が、果たして中小企業にとっての公正処理基準といえるのか疑問である。新収益認識基準が資産・負債アプローチに立脚し、中小会計要領が収益・費用アプローチに立脚するという点からも不整合といえる。また、本稿で取り上げたケースで求められるような処理は「簡便な会計処理」とは言い難く、確定決算主義のもとで中小企業の計算書類、会計帳簿の信頼性及び記帳の適正性を担保するためには、税理士や公認会計士の監査を活用するなどの必要性が高くなると思われる。

 

 

非上場株の評価に関する近年の主要判決と判決の評価通達に対する判断枠組み

長島  弘(立正大学教授・税理士)

 

(要旨)

 近年、相続財産評価にあたり、国側が総則6項を適用して、納税者が財産評価基本通達(以下「評価通達」)に従った評価方法で申告したものを否定する事案が増えてきている。大きくは非上場株式の評価に関するものと土地等不動産に関するものに分けられるが、本稿はこの前者に関する近年の裁判例(ただし一部不動産に関するものも取り上げる)から、どのような場合に、総則6項の適用が認められたかについて概観する。

 なお、相続税法22条では時価と定めているところ、財産評価通達は通達にすぎず、法令に委任され制定された告示である固定資産評価基準とは大きく異なることから、この差異は重視されるべきではある。しかし両者とも、時価が定められた評価方法による価額と異なるときにその時価を採りえるためには、単に鑑定評価等でその評価額と時価の開差があるだけではなく、その定められた評価法を採りえない特別の事情の存在、又はその評価方法自体が一般的な合理性を欠くという点の主張立証が必要とされている。

 この点、論理的には問題がないとは言えないが、実務上重視すべき点と言える。
 なお本稿は、学会シンポジウムにおける討論の題材提供という視点で書いたもの
であることを付記しておく。

 

 

非上場株の評価に関する税務問題

 〔司      会〕 依田俊伸(東洋大学)

 〔討論参加者〕長島 弘(立正大学) 金子友裕(東洋大学) 一由俊三(税理士)

        小林義和(税理士)  澁谷   和(税理士)  内野正昭(税理士)

 

司会(依田・東洋大学) これからシンポジウム「非上場株の評価に関する税務問題」を始めます。シンポジウムは初めての試みであり不手際があると思いますが宜しくお願い致します。本日は、4人のディスカッサントの先生方をお願いしております。長島先生は先ほどの第2報告で本当にお疲れと思いますが宜しくお願いします。

 シンポジウムはお配りした資料に沿って進めてまいります。

 まず、非上場株の評価に関する税務問題といっても範囲が非常に広いので、それを体系化してみたのが、資料の「1.非上場株の評価に関する問題の体系」です。ここでは相続税法・法人税法·所得税法という「税目」でまず分けてみるという手法を取りました。

 これを素材にしてディスカッサントの先生方に議論をお願いしたいと思います。まず、長島先生ですが、 トップバッターとして、税目ごとの問題点を概観していただけるとありがたいです。たとえば、相続税法においては、評価方法それ自体であるとか、通達6項等が挙げられます。法人税法においては、法人税における時価の評価等、所得税法おいてはみなし譲渡課税の際の時価評価、特にタキゲン事件が挙げられます。

続いて、税目別に相続税法のところは金子先生、法人税法は小林先生、所得税法は澁谷先生にお願いします。あとはフリートーキング的に議論を進めていただけるとありがたいです。

 なお、金子先生から詳細な資料をご提供いただいておりますので、金子先生の資料も参照していただきたいです。それでは、長島先生からお願いできますでしょうか?

 

長島(立正大学)今、依田先生から相続税に関しては財産評価通達により評価することに、これで良いのかという議論と、あと6項適用の間題ですね。この2つについてちょっとまず簡単にお話します。……続く

 

 

日台租税協定における日台それぞれの国内適用プロセスの検討

高橋孝治

(台湾・淡江大学日本政経研究所訪問研究員/立教大学アジア地域研究所特任研究員)

 

(要旨)

 日本と台湾(中華民国)間の租税に関しては、「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための公益財団法人交流協会と亜東関係協会との間の取決め(日台租税協定)」が20151126日に署名された。しかし、日本と台湾の関係は、政府としての「国交」ではなく、民間レベルの実務関係によって維持されている。そのため、この日台租税協定は「条約」ではなく、この内容が国内で施行されるためには別途国内法の制定が必要となるはずである。日台租税協定はどのようなプロセスを経て日台それぞれで国内適用されているのかを検討するのが本稿である。

 本稿の結論としては、以下のように述べる。日本では「外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律」が制定され、台湾では日台租税協定を総統と行政院院長の連署で公布し、立法院の可決を経て直接適用がなされている。これを受けて、日本側では日中共同声明の規定に反しないような配慮を随所にしているが不徹底であり、台湾側では日台租税協定の法的位置づけが不明確で立法院可決の時期についても問題があると指摘する。