≪論文要旨≫

    

法人税法22条4項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」の法的検討(続編)

一過年度の損益修正との関係から一

長島弘(立正大学法学部教授)

 

はじめに

法人税法上、過年度の損益について誤りがあった場合に、それは元の年度の誤りとして、修正申告または更正の請求によるべきものなのか、それとも前期損益修正として経理処理した年度の損金または益金に算入されることになるのであろうか。この点に関し過年度の損失について、公正処理基準から前期損益修正として経理処理した年度の損金に算入されるとする裁判例が続いた中で、昨今、過年度の損失として更正の請求を認めるとする判決があった。そこで、本稿において、これまでの裁判例を概観し、この更正の請求を認めた事案を検討する中で、過年度の損益修正につき如何にすべきかにつき検討する。



大法人の電子申告義務化に関する一考察

小林義和(税理士)

 

はじめに

 平成30年度税制改正において、行政手続きコストの削減および企業の生産性向上を図るために、「電子情報処理組織による申告の特例」が創設され、一定の法人が行う法人税等の申告は、電子申告により提出しなければならないことになった。

令和2 ( 2020 )年4月1日以後に開始する事業年度から電子申告が義務化され、電子申告による申告書等の提出以外は原則として無申告扱いとされる (法法75の3 )。

本稿では、新規に導入される電子申告義務化の社会的・経済的背景・経緯およびその具体的内容を概観した上で、電子申告義務化を実践する場合における実務的課題を検討したい。



 

法人税法における時価の検討

 

ー独立企業間価格の検討を中心にして一

金子友裕(東洋大学経営学部教授)

 

開題

企業会計基準委員会は、 令和元年 ( 20円 年) 7 月 4 日に企業会計基準第30号 「時価の算定に関する会計基準」 (以下、「時価算定会計基準」と略す) を公表した。このよ うに、企業会計では時価の取扱いが注目されている。

企業会計における時価については、FASB (Financial Accounting standards Board:財務会計基準審議会)における概念フレームワークでは、複数の測定基礎を示している)が、2000年に公表されたSFAC(Statement of Financial Accounting Concepts:財務会計概念書)第7号では、「近年、公正価値をほとんどの当初認識の測定と後の期間におけるフレッシュスタート測定のための目標として示した」(SFAC第7号、para.7)とし、また、「当初認識における会計測定およびフレッシュスタート測定において使用されるとき、現在価値(present value)の唯一の目的は、公正価値を見積もることである。

言いかえると、現在価値は全体的にみると、もし存在するならば市場価格つまりは公正価値からなる要素を捉えようとするものである。」(SFAC第7号、 para.25 )としている。そして、SFAC第7号を受け、2006年にSFAS(Statement of Financial Accounting Standards : 財務会計基準書)第157号(現在では ASC (Accounting Standards Codification.コード化された会計基準) Topic 820) を公表し、公正価値測定を会計基準とした。

また、IASBにおける時価については、このSFAS第157号と同様の会計基準をIASB(International Accounting standard Board=国際会計基準審議会)はIFRS (International Financial Reporting standards = 国際財務報告基準) 第13号として公表している。この時期において、公正価値による統一的な測定を検討していたとの見解もあるが、その後、IASBから 2018年に公表された概念フレームワーク(以下、「2018年概念フレームワーク」という) では、 測定基礎を歴史的原価と現在価額(current value)との2区分とし、現在価額を公正価値、使用価値 (履行価値)、現在原価 (current cost)に細分化する例示を行っている(「2018年概念フレームワーク」、para. 6.11)。現在価額を時価と捉えれば、時価を公正価値に限定せず、使用価値 (履行価値)や現在原価を含めた多様な概念として捉えている。

そして、冒頭で示したように我が国でも企業会計基準委員会が「時価算定会計基準」を公表した。この会計基準は、金融商品やトレーディング目的の棚卸資産を対象にするものであるが、時価を「算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格」(「時価算定会計基準」5項)としている。この定義に関し、「IFRS第13号における用語の定義のうち、必要と考えられるものについて、本会計基準の用語の定義に含めている」(「時価算定会計基準」29項)としており、「IFRS第13号の定めを基本的にすべて取り入れる」(「時価算定会計基準」24項)という方針でこの企業会計基準を開発している。

 なお、「相場価格を調整せずに時価として用いる場合における当該相場価格もインプットに含まれる旨をインプットの定義に記載したように、市場関係者の理解に資すると考えられるものについては、IFRS第13号の表現を一部見直しているが,IFAS第13号の内容と異なる定めを設けることを意図したものではない。」(「時価算定会計基準」24項) とされ、IFAS第13号の内容と異なる定めを設ける意図でないことが明記されている。

 

 このように、企業会計でも、時価の検討がされており、多様性が生じている。また、後述するように、法人税法においても法人税法第22条の2に関する国税庁の説明において「税法上の時価」という表現が用いられる等、法人税法における時価も検討すべき状況にあるものと思われる。

 このような状況を踏まえ、本稿では、租税法において代表的な時価と考えられる相続税法の時価の整理に続き、法人税法における時価を整理・検討することとする。そして、公認会計士協会でも「移転価格税制の独立企業間価格の考え方は国内関係会社間の取引価格にも十分示唆を与えるものと考えられる」とされるように、典型的な時価のように考えられる独立企業間価格であるが、現行の法人税法で定められる独立企業間価格は、時価として特殊性を有していると考えられる。このため、法人税法における時価の中でも特殊と考えられる独立企業間価格の特徴を詳細に検討する。

 なお、このような検討においては、時価以外の税法的検討事項(課税要件等)も付帯するものと思われるが、本稿では議論の発散を防止するため、法人税法における時価に関する議論に集約し、それ以外の要素は議論に必要な範囲に留めることとする。

 

 

The Modern Characteristics and Issues of Environmental Taxation in Japan

SHOKO SAKAI, Kaetsu University (Associate Proffessor)

 

1 Introduction

Traditionally, in Japan, there has been no tax system such as the environmental related taxes. However, there still some of the taxes exists, which relates to energy taxes like a consumption tax for energy, such as volatile oil tax, local volatile oil tax, aircraft fuel tax, oil gas tax, oil coal tax, etc. These taxing standards are based on the consumptions quantities of energy goods, and the tax rate applied to the calculation of tax amounts was a target tax rate based on consumption quantity.

However, focusing on fossil fuel C02 emissions in 201 1, the basic policy of "Global Warming Countermeasure Tax" is targeting to the 30% reduction of C02 emissions, which is compared to the 1990 level by 2030 was shown. As a result, the reform of the tax system in 2012, "Global Warming Countermeasure Tax" was enforced. In addition, by adding a tax rate to the existing oil coal tax rate, taxation of C02 emissions also implemented

Almost 25 years before the first carbon tax called "1990 Carbon Tax" was introducing in Finland. Later, Japan also copied the tax system of Finland and introduced C02 emissions tax. But, this new C02 emissions tax was very Imponderables.

On the other hand, "Forest Environment Tax" was in formation in 2019 tax reform. The main purpose of this system is the maintenance of Japanese forest and

Preventing the global warming. In Japan, there are huge problems of maintenance and management of forests. One of the biggest problems is a lack of manpower, who manage and maintain the forests. Such as many aged owners who are already very old shifted to different places due to their health problems or due to old age. That made lot of unknown property owners, undetermined boundary between owners and forest, where nobody can manage those forests. Another purpose is to preserve the national forest land and natural water resources for benefits of the local people and better living circumstances.

This paper presents the conditions and problems of the "Global Warming Countermeasure Tax" in Japan. And this paper also accounts the importance of the "Forest Environment Tax" to prevent the global warming.

 

 

 

租税回避行為と合法性の可否について

ーデンソーの課税取消処分(最高裁判決)に関連して一

守屋俊晴(公認会計士・税理士)

 

1.取り上げた事案内容の概要

 本件事案で触れている「事案の概要」は、平成26年(行コ)第91号「法人税更正処分取消等請求控訴事件」(平成28年2月10日「名古屋高裁」判決) と平成28年(行ヒ)第224号「法人税更正処分取消等請求控訴事件」(平成 29年10月24日「最高裁」判決)である。なお、原審である名古屋地裁の平成23年(行ウ)第116号に係る判決内容については、本稿では触れていない。

 一審の名古屋地裁はデンソーの主張を認め、「2年間の追徴課税処分を取り消した」が、二審の名古屋高裁は、デンソーの「子会社の主要な事業は株式の保有である」として、要するに「事業実態のない子会社」と判断して逆転敗訴とした。そして平成29年10月24日、最高裁は「事業実態のある子会社」と判断して、高裁判決を棄却し、デンソーの逆転勝訴とした。

企業において海外子会社の税務問題は「重要な企業戦略上の経営課題」となっている。税金は 「対価のない支出」であるから「いかに節税するか」は、海外に進出する場合の経営意思決定上の重要な判断要素のひとっとなっている。

企業にとって、「税金もコス ト」であり、その削減は経営目標とされている。

海外進出は、低賃金がこれまで大きな進出要因であったが、これからは 「税金対策」も重要な検討要素となってきている。

 名古屋高裁の「主文」は、以下のとおりであった。

①一審被告の控訴に基づき、原判決中、一審被告の敗訴部分を取り消し、同部分に関する一審原告の請求を棄却する。

②一審原告の控訴を棄却する。

③ 訴訟費用は第一審、 第二審とも一審の原告の負担とする。

 重要な問題である「一審被告の敗訴部分を取り消し」された内容については、以下の本文で触れることにしている。

 他方、最高裁判決の「主文」は、以下のとおりとなっている。

①原判決中、主文第1項を棄却する。

②被上告人の控訴を棄却する。

③上告人のその余の上告を棄却する。

④訴訟の総費用は、これを400分し、その1を上告人の負担とし、その余を被上告人の負担とする。

 

 ここで面白いのは、「訴訟の総費用の負担割合」である。勝訴人(上告人) の負担が0.25%とされたことにある。計算根拠として合理的配分なのか、中々、理解しにくい判旨である。