≪論文要旨≫

    

剰余金配当の課税の検討

金子友裕(東洋大学教授)

 

(要旨)

 法人税法における課税所得は益金の額から損金の額を控除して計算され るものとなるが、 この益金の額及び損金の額には資本等取引によるものを除いている(法法22 ②及び法法22 ③三)。このように法人税法における課税所得計算において資本等取引は重要な概念となるが、法人税法における資本と所得の関係の検討について示唆のある判決(東京地裁平成29年12 月6日判決(税資267号-146 (順号13095 ) )及び東京高裁令和元年5月29 日判決(TAINS Z888-2243 ) )があった。本稿は、本判決を取り上げ検討したものである。

 

 東京高裁判決では、「法人税法が、株主拠出部分と法人稼得利益とを峻別する基本原則」を重視し、「剰余金の配当全体を『資本と利益』が混合したものと考え、一旦その全額を法24条1項3号の『資本の払戻し』と整理したとみることには疑問が生ずる」と判示している。「資本と利益」の峻別は適正な課税所得を算出するためにも重視すべきものであり、政令(剰余金の配当直前の利益積立金額が0未満(マイナス)である場合に法人税法施行令を適用すること)を無効とした判断は妥当なものと考えられる。


 

インド税制の現状と租税政策

酒井翔子(嘉悦大学)

 

(要旨)

 今や南アジア経済を牽引するほどの経済成長を遂げ、2億人を超える労働人口に富むインドは、進出先・投資先国として注目されている。2014年に発足したモディ政権から断続的な租税政策も進められ、世界銀行による「ビジネスのしやすさ指数」のスコアは、130から140位ほどであった従来から70位台まで急上昇している。こうした成果は、主として法人税における政策税制とGSTの導入が大きく寄与していると考えられる。

 また、インドの諸制度は、英国統治期に形成されたこともあり、現代法においても、英米法のコモンロー(common law)の法体系が継承され、各税制諸制度も基礎的な体系・構造のほとんどが英国の法体系に類似している。英米色の強い歴史的形成過程を有していることから、他の南アジア地域協力連合加盟国に比して、インドの法整備状況は、適正に行われている点も興味深い。

 本論文では、インドにおける制度に関して、重要な税制基盤である法人税、所得税、消費税を中心に現行制度を概観し、近年、積極的に行われている租税政策について言及している。


 

租税回避行為と合法性の可否について

 ー居住者と非居住者の判定に関する事例検証一

守屋俊晴(公認会計士・税理士)

 

(要旨)

 類似案件の「武富士税務訴訟事件」において、最高裁は、原審が形式的要件と判断とした「香港での滞在日数」について、実質的要件(生活要件)を充足しているものと判断して、原告勝訴した。

本件事件の原告の日本国内における滞在日数は、平成21年から4年間、93日、105 日、83日、128日であるが、国(税務署長)はアメリカとシンガポールは、日本と同程度か、短期間であり「甲の住居は日本住所地にあった」と主張した。

 他方、甲は、日本滞在中は日本居宅を滞在場所としていたが、アメリカ滞在中とシンガポール滞在中は、各々の国の居宅を滞在場所としており、当該国において安定した居宅であり、「日本居宅に生活の本拠があったことにはならない」と主張した。

 単純に居住地を考えた場合、相対的多数をもって「可」と判断することができるとしても、所得税法上では絶対的多数をもって判断(形式的要件)したのが、武富士税務訴訟事件にみられる最高裁判決文であり、本件採決においても、それを引き継いでの最高裁判断となっている。